国債・財政危機・通貨

【国債発行】

新型コロナウイルス危機で新興国は、財政出動の財源をあがなおうと、国債発行を大幅に増やしている。2020年の新規発行額は前年の2倍の3兆ドル(約320兆円)に及ぶ可能性がある。中央銀行は国債購入に動く。中央銀行の独立性が侵され通貨の信認を失うリスクがある。中国をはじめとする新興国40か国の財政赤字はGDPの10.6%、3兆㌦と急激に拡大している。借り換えを含めた発行額は5兆ドル近くに膨らむ。

 中国の国債市場に欧米などの海外から投資マネーが流入している。外国人の中国国債保有残高は今年2021年5月末で2.1兆元(約36兆円)と前年の同月から46%の増加である。政治摩擦が大きくなる中で、利回りの高さが人民元にマネーを引き寄せている。外国人の中国国債保有額は2016年初頭で2500億元程度であった。18年夏に1兆元を超えて今年21年に2兆円を超えた。

 日本の大手生命保険会社は中国への国債への投資を始めているが欧米に比べるとそれほど積極的ではない。GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)も今のところ投資に慎重である。中国国債の購入増が5月末1㌦=6.35元という人民元の高値を呼んでいる。

【各国の物価、通貨為替、通貨安】

 アメリカは大規模な経済対策で長期金利も上昇し、ドル高が進行した。新興国は通貨安に歯止めをかけるため利上げが広がっている。先進国は物価上昇を覚悟しながら景気を支えようとしている。ECB(欧州中央銀行)は、国債などの購入を実施している。FRBは、ゼロ金利政策を23年末まで続けることになりそうである。日銀はコロナ対策の一環で景気回復を後押しする方針である。緩和マネーは膨張し続けている。FRBの総資産は21年末に8兆7630億㌦(955兆円)に膨れ上がる見通し(現在は712兆円)である。

 新興国は通貨膨張をつづけるゆとりがない。ブラジルとトルコは政策金利を大幅に引き上げた。ロシアは2021年3月19日に2年3か月ぶりに金利を引き上げた。  日銀は、ETFの買い入れを柔軟にする、銀行支援体制でマイナス金利による減収を補う。長期金利の変動幅拡大、などの方針を提示している。

【日銀資産】

 新型コロナウイスルの対応による資金供給で日銀の資産が膨らんでいる。2020年12月末時点で702兆円となり、1年前より129兆円増えている。資産の伸び率は年間23%である。銀行への貸出金が11兆円となった。コロナ対策のための企業資金繰り支援を固いとしているためである。コマーシャルペーパー(CP)と社債の買い入れも約2倍になっている。ETF(上場投資信託)の買い入れも年7兆円で、残高は時価で45兆円にのぼる。国債残高は535兆円で11%増えている。他国の中央銀行の資産増加もコロナで増えている。金融の過剰供給による極端なインフレや反発による急落など金融市場の不安定につながる可能性はないだろうか。危機が危機を呼ぶ構造には陥らないような配慮が必要である。

【法定通貨に仮想通貨を採用検討】

 通貨は自然発生したものである。近代社会の形成の過程の中で、銀行が通貨を発行するということが、行われるようになった。やがて中央銀行ができ発券という貨

幣鋳造の権利は中央銀行に集中されることになる。近代国家の体制ができるにつれて、国家の意義の一つとして貨幣鋳造権ということが確定される。通貨は勝手に作ることはできなくなった。近代国家の主権は通貨発行権が一翼を担っていた。

 最近発行されるようになったビットコインはこの国家の原理に反している。偽造貨幣=偽貨幣という扱いになってもおかしくない。しかし、議論を待つことなく、ビットコインは世界に広がっている。

金やビットコインは、「無国籍通貨」とよばれる。ビットコインは貨幣的機能よりも、投機の対象となる性格に変身している。金とビットコインは相場に関して逆相関になっている。ドルは2020年8月に1トロイオンス2000ドル史上最高値を記録し、その後落ち着いた。高騰の原因は、①コロナ感染拡大、②トランプ政権の不透明感、③超低金利がある。3つとも今年は消えている。ビットコインは、過剰金融緩和、インフレによる資産上昇などで、高騰する。投機的な取引が増えるとビットコインの取引も増えて価格が上昇する。

今年の夏にアメリカの中央銀行FRBはデジタル通貨(CBDC)の発行の前向きの検討に入る。中国は2022年の冬季五輪までの発行を目指し、デジタル人民元の実証実験を繰り返している。欧州中央銀行(ECB)によるデジタルユーロの発行を求める声も出てきている。仮想通貨の導入は、利便性がある一方で危険性が大きい。金融政策への影響、消費者保護の点で危険性がある。さらにサイバー攻撃などで大量のドルが奪われる可能性があり、世界経済がマヒしかねない。CBDCの通貨のインターネット操作に関する基礎技術のテストも進める必要がある。

不安定の要素の一つに金融の安定していない国が、仮想通貨に踏み出すことがある。中米のエルサルバドルのブケレ大統領はビットコインを政府が法的に認める法定通貨にする考えを示した。仮想通貨は利便性が高い反面、政府や中央銀行による管理が届かない恐れがある。エルサルバドルは、2001年に法廷通貨として米ドルを採用している。国民の7割が銀行口座を持っていない。GDPの2割が海外の出稼ぎ労働者からの送金が占めている。インターネット環境さえあれば送金できる利便性から今回の検討に至っている。

しかし、ビットコインは価格変動幅が大きいほか金融政策を政府が取れなくなるというリスクがある。通貨政策の失敗から経済破綻につながりかねない、という危険性をもう少し検討する必要があるのではないだろうか。

デジタル通貨を導入する基本的な観点として、投機社会、カジノ経済の検討もなされる必要があるのではないだろうか。むしろ、通貨統一による通貨決済の便宜性を排除することが安全と公平をもたらす道ではないだろうか。そのほうが、貧困者も金融を利用できる「金融包摂」(Financial Inclusion)に寄与するのではないだろうか。

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