農業問題の諸側面――スマート農業か自然農法か

日本の農業は、日本の農業だけの問題ではない。世界の農業との連携が欠かせない。農業は自然を基本要素とするので、製品管理、輸送、技術開発などの点で、資本主義的に解決しがたい問題を含む。それを資本主義的な技術による克服という視点に立てば、人間本来の自然とのかかわりが破壊されてゆくことにもなりかねない。各国政府は農業に財政援助をする。しかし、それは農業問題の解決からは遠い。農業の関連企業が機械の貸し付けや生産方法の押し付けなどで、農業機械の使用の強制、農民の借入金の増大をもたらすことになる構造がある。農薬使用、化学肥料の使用強制、遺伝子組み換えなどに導くことがある。農民を抑圧し、先進国が世界の農業を収奪するという構造も注意する必要がある。

【地球環境】

 地球環境と農林業は密接につながっている。それはグローバルな課題となっている。日本の技術はブラジルの生物の多様性の保全や環境技術の開発、アマゾンの熱帯雨林地域の持続可能な雇用創出に貢献している。違法な森林伐採は自然災害に対処するため、AIを用いた取り組みで協力している。ブラジル政府は、バイオ燃料技術の開発を目指している。サトウキビ由来のエタノールは、CO2の排出量削減につながる可能性がある。

【農業の国際性――サプライチェーン】

世界の農業は結びつけられている。日本のパイナップルはほぼ全量が輸入である。フィリピン産が97%を占める。台湾のパイナップルは中国への輸出が主流であったが中国が禁輸措置をとった。フィリピン産は2020年、年間15万7000トンであった。台湾は2100トンでしかない。中国の禁輸で台湾産のパイナップルは日本市場に入りだした。

 インド企業が日本のイチゴ栽培技術を導入している(バンガロール)。日本の農業生産法人がアジアでの稲作生産に力を入れている。稲作を中心に手掛ける「新鮮組」は、タイでビール大手(シンハー・コーポレーション)と8000ヘクタールの水田でコシヒカリを生産し、世界に輸出している。イチゴ生産の秀農業(愛知県)は中国上海市内にイチゴ栽培を手掛けている。特定非営利活動法人のイノプレックスは農業生産法人のインド進出を後押しする。(日経新聞2012.8.20)

 キリンホールディングスはベトナムでコーヒー豆栽培をする農園に対する支援を拡充する。ベトナムのコーヒー豆はキリンHDの缶コーヒーの原料の3割を占めている。原料の品質向上や安定供給につなげる意図である。

【国連の提唱:SDGs】

 キリンHDは、認証機関「レインフォレスト・アライアンス」の認証取得を支援する。生物の多様性に配慮、生産効率、品質の工場、農か労働環境改善などが基準となる。

【政府の農業政策】

政府の規制改革会議は、農業改革論議を2014年5月にまとめている。全国農業協同組合中央会(JA全中)の2014年4月に「経済革新プラン」を立てている。農協の政策と政府の政策の並立である。

 農林水産省は地域の農地を集約して大規模経営をめざす。2014年春に設立した「農地バンク」を活用し、農地貸し出しの仲介業務に本腰を入れてもらう。一戸あたりの農家耕作面積を広げ、生産コストを下げて農産物輸出も手掛けると考える。また、建設業の吉田組(兵庫県)は農地バンクを通じて耕作放棄地を借り受け、ネギの出荷をしている。

 政府の農業の基本政策は、大規模化である。世界史的には、イギリスやヨーロッパで農業革命がおこり、近代農法と耕地の大規模化が起こった。日本は戦前、反奴隷的と言われた小規模農業であったが、気候が温暖で土地が肥沃だったので、土地当たりの穀物の収穫はヨーロッパの4倍ほどあった。近代農法は、農薬、肥料、機械化と結びついている。その流れの中で、近代国家の農法が政府の観念となっているようである。

【スマート農業】

 近代農法は、新しい技術の進歩とともに、スマート農業といわれるものに変容する。ロボットやドローンによる機械化、AIを用いた生産や流通管理などで、企業や自治体、研究機関ベンチャーキャピタルが連携を活発化している。農業の技術革新は、農林漁業の輸出拡大や技術革新に向けた民間資金による投資を促し、農業の生産法人を後押ししている。さらに、水産業、食品加工業、林業などもスマート農業の対象となってきている。農薬散布ロボットなども実験段階に入っている。

 農機大手のクボタは他社との連携を強めている。北米を中心に出資している。国内向けにも目を向けだした。2020年11月に植物工場のプランテックスに出資、今年4月に国立研究開発法人の農業・食品産業技術総合研究機構と共同でスマート農業の生産システムを手掛けている。石川県の外郭団体「いしかわ農業総合支援機構」も稲作にドローンを活用しようと農薬散布でシステム開発のオプティムと連携する。

後継者難や高齢化に直面している日本農業にとってスマート農業の諸組織とのつながりの方向が進められる根本原因と言えそうである。2020年時点で、自営農業者は136万3000人、その内65歳以上が69.6%である。農業団体は38000で、ほとんどがスマート農業を目指している。①作業の自動化、②情報教諭の簡易化、③データ活用などを行う。農業生産者から外食産業への販売網が構築されてきていたが、コロナで飲食店が苦境に陥る中、農協を核とした販売体制が復活し、主な売り先がスーパーになっている。それに加えて、SNSを使った個人への直販に広がっている。

<スマート農業か自然農法か>という問題は日本の将来を考えるうえで、極めて重要な課題である。

【有機農業】

 日本の有機農業の農地に占める比率は2018年時点で0.5%。農水省は「みどりの戦略」で、病虫害を早期に発見する技術、除草ロボット、病気に強い品種開発などを課題に挙げている。農水省は補助金で対応しようとする。有機農業に対する取り組みは農地面積当たりイタリアで、16%弱、スペイン10%弱、ドイツ、フランス、イギリスなど7%から9%である。日本は極めて低い。

<地球環境の未来にとってどんな農業がふさわしいか>という問いも重要であるが、それ以上に、人間存在にとって農業の持つ意味を考える哲学が、はるかに重要である。福岡正信氏の自然農業は独自の哲学のもと、土地の共有やすべての人間が農に携わるなど徹底した自然農法を問いかけてきた。鈴木正三は、「農業は仏法である」という哲学であった。浄土真宗の根本思想につながる。

国家が自然農業にかかわる政策を模索し、日本人の一つの幸福の在り方を視野に入れることは一つの国民の幸せにつながる発想に組み込まれることになる。自然と人間の共存を国の政策につながる日を目指したいものである。

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