格差社会はこうして作られる
1980年代までの独占資本主義の時代から、新しい資本主義に移行して、労働者・人間社会の在り方が、階層社会から格差社会に変化したと言える。独占資本主義から得られる利潤と法人税が、労働者の権利と社会福祉を支える前提であった。階層社会は独占資本主義の中で、裕福な層と中間層と体制から外れた階層と低所得の労働者などの階層からなる。この社会は学歴社会でもあり、学歴が階層の基礎となる。学歴によって富裕層、中間層、下層が形作られる。そして、正規の会社員は多数が中間層となり、かなりの人数を占めていた。正社員が社会の中心となった。
その体制が崩壊するとき、中産層が解体してゆく。それが1980年代から90年代にかけての先進諸国の変化であった。正社員層が細り、しかも正社員は独占体制で守られる存在ではなく、大競争の中に投げ込まれていった。膨大な非正規雇用が増えることが、格差社会の始まりを意味する。そして、新しい体制は、その格差を大きくしていくいくつかの要因がある。
≪原因≫
格差社会を生む最大の要因は、極端な非生産的経済活動部分への富の偏りである。
金融経済に関連した分野、政府と絡んだ特権階級、その他不労所得者層が極端に膨張していっていると言える。そしてIT関連の新しいビジネスは大きな富を生み出し、超富裕層を生み出している。さらに、格差の原因は次のような諸点からできている。第一に、これまでの独占資本主義体制の崩壊である。独占は独占利潤を前提として富裕階層を作り、労働者の貴族化や中産層を形成していった。階層社会の上位部分を担っていた。その独占の崩壊が、多くの非正規労働を生むことになる。中産層は、非正規雇用化によって縮小・消滅していった。
第二に、金融の巨大化である。金融ビジネスは大きな産業となり、デリバティブをはじめとする新商品を生み出し、あらゆるものを証券化していった。金融分野の超富裕層を生み出すこととなった。
第三に、IT独占の資産蓄積である。GAFAに代表されるような巨大グローバル資本が巨大な富を世界中の大衆から得ている。ITを駆使した新しいビジネスが多数生まれている。
第四に、グローバル化による低価格商品、世界経済の価値格差の影響がある。これによってデフレがもたらされ、低価格商品と低価格労働を生み出している。
第五に、税による直接搾取と特権階層の肥大化である。公益事業での特別利潤の取得や特権的な税優遇、高額所得者の税の回避などが蔓延している。
第六に、単純労働の低価格化である。賃金の最低生活費以下的状況が生み出されている。低所得者の階層が4割を占めるような状況が生まれてきている。
【ITなど新しい独占の資産集積】
世界の個人資産は418兆ドル(約4.6京円)である。100万ドルを超える資産家は5600万人いる。全人口の1%の富裕層が資産全体の46%を握り、全人口の55%の庶民の保有は1%しかない。アメリカの主要500社のCEOの報酬の平均は標準的な従業員の299倍にのぼる。(2021.7.21)これが一部の者の富の収奪の結果だと言える。
【単純労働の低価格化】
新しい資本主義では、企業はクリエイティブな人材を求める。管理職の役割が変化してくる。「管理」というより、「経営戦略的な役割」を期待される。三菱ケミカルは4000人の管理職にジョブ型雇用を導入した。一般社員にも広げてゆく予定である。成果を重んじる雇用形態である。日本企業はこれまで「ホウレンソウ:報告・連絡・相談」を重視する傾向が強い。その体制的・集団な仕事の形態から、下からの自発性を求めようとする傾向に置き換わってきている。 メンバーシップ型雇用は海外からの労働者にはなじめない。労働が職務に規定されてノルマを果たすことが中心になる。
このような雇用形態・労働形態が、格差を広げる要因ともなっている。メンバーシップ型雇用による中間層の役割は薄れていき、個人中心のジョブ型雇用では、多くの人は単純労働にならざるを得なくなる。
【教育の格差】
アメリカの労働者にとって、大学卒業ということが雇用と最低賃金を超える雇用の条件となっている。教育に差が生じ格差が広がる。教育を受けるためのローンに金融機関が進出し、人々の貧困化につながっている。
【失業】
失業は世界に広がっている。アメリカの失業保険の受給者は2020年12月27日から1月2日が、527万1000人である。南アフリカでは前大統領の汚職疑惑に端を発した暴動が起こっているが、コロナが追い打ちをかけている。失業率は32%を超える。黒人の失業率は48%で、若年層は74%である。(2021.8.3)
【コロナと所得格差】
コロナと所得格差の関連が捉えられている。所得格差を測るには一般に、「ジニ係数」を用いる。完全に平等な場合をゼロ、完全に不平等な場合が1となる。コロナ感染の状況には、介護施設入居数や医療体制、健康状況が関連していると考えられる。所得格差が小さい北欧諸国では人口当たりの死者数が低い。ジニ係数0.29のフランスでは、0.34の英国よりコロナ感染による死亡が少ない。格差が大きいアメリカのニューヨーク州ではコロナの感染者数も死亡者数も多い。
【社会保険制度・年金制度】
日本では、生活保護費の半分を医療費が占めている。生活保護者の医療費は全額国費であるので過剰診療や過剰投薬が起きやすいという問題がある。2012年度の生活保護費は3.7兆円に上っている。受給者は211万人である。家族制度や社会のつながりが希薄化し個別化するにつれて生活保護受給者が増えている。生活保護制度自体が、年金制度や社会保障制度と一体化して見直されなければならない。
≪格差を減らす社会≫
先進各国政府は、低所得者の所得を上げるために最低賃金を引き上げるという対策が取られることがある。オーストラリア、カナダ、バイデン政権のアメリカなどである。日本も2021年7月16日に一律28円上げている。全国平均で時給930円になっている。日本は他の国に比べて値上げ幅が少ないので影響は小さい。最低賃金を上げた国は、インフレに見舞われている。土地、家屋などの不動産が上がり、人々の生活は苦しくなっている。さらにその国の通貨の価値下落を招いている。格差是正の観点での引き上げであるが、結果は逆である。インフレと外国製品の高騰を招いている。物価は労賃が基本である。労賃が上がるとき、強烈なインフレが発生することの危険性を第一に考慮しなければならない。
バイデン大統領は今年4月の議会演説で格差是正を最優先にした政策運営の姿勢を強調した。転居支援とネット環境の提供がその主な内容である。活動の可能性とアメリカンドリームにつながる機会を見つけ出すことのために、基礎的インフラの整備をアメリカ人は望む。
格差拡大の是正を進めるためにできることはいくつかある。まず、税制の改定である。低所得層の所得税をなくすこと、定額の売り上げの小企業の法人税をなくすことで、低所得者層の生活・経済活動が活発になる。金融投資の優遇措置をなくすこと、高額法人税の免税措置を廃棄することなどが、社会全体の格差極大化を緩める。特権的な公益法人や政府機関を廃止することも富の収奪を是正することになる。さらに労働政策でのジョブ型を推奨することは不要である。社会保障、医療、年金、生活保護の一体改革で、低所得層の存続基盤を確実なものにすることも、必要不可欠でなないだろうか。
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