タリバン支配とイスラム世界の国家建設
【歴史的経緯】
アフガニスタンは1980年のソビエト連邦の侵略から戦争の歴史が始まっていた。冷戦の中でアメリカとソビエトの代理戦争が行われた。アフガンのいくつかのイスラム勢力がソビエトと戦い、アメリカが支援し武器を提供していた。アルカイダはその中で生まれた。オサマビンラディンはその中にいた。1989年にソビエトが撤退した。アメリカもイスラム世界から富を奪う敵と認識されるようになった。アルカイダは組織を大きくし、タリバンがその中で台頭し、やがてタリバンがアフガニスタン全域を支配するようになる。
アフガニスタンのアメリカ支配は、2001年のアメリカ本土の同時多発テロから始まる。今年、2021年8月末の完全撤退で、長い戦争に終止符を打った。しかし、そのあとにタリバンがアフガニスタンほぼ全土を制圧し、テロ組織ISの地域勢力と若干の北部抵抗勢力がのこっている。アフガン政府は撤退し、30万といわれたアフガン軍は壊滅した。タリバンは、6万人に過ぎない。
タリバンの支配では女性の就労が極端に制約され、外出も禁止されることが多い。学校に行くことにも制約が多い。スマートフォンは禁止、毎日、食料を税として要求される。従わなければ殴られる。アフガンの人口は400万人弱。25歳以下が3分の2を占める。
2011年5月に、アルカイダのオサマビンラディンを殺害し、一定の目的を達成した。オバマ政権時代の2013年に半ばには戦闘を終えて、14年末までに米軍は完全撤収するはずであった。アフガン政府に治安手続きを完了する方針を決めていた。
【アメリカのアフガン撤退】
タリバンは、アメリカが政府軍に提供していた兵器を手に入れて軍事力を増強している。ドローン兵器、大量の弾薬のほか、無人偵察機「スキャンイーグル」、多目的ヘリコブター「ブラックホーク」などのハイテク装備がタリバンにわたっている。米国はアフガン軍にライフル銃などの軽火器60万丁、車両7万6000台、暗視ゴーグル1万6000個などを提供してきた。20年間で800億㌦(8.8兆円)にのぼる。軍事産業に頼った国がもたらした結果である。
多くの国の大使館員が国外退去をする中、ロシアのジルノフ大使は、脅威はなく、活動を続けると発言している。ロシア軍はウズベキスタン、タジキスタン、などで8月上旬、軍事演習を展開している。ロシアにとっても、難民の発生とテロの発生は懸念材料である。
中国外務省は、「中国はアフガン再建のために中国は建設的な役割を果たしていきたい」と述べている。資金提供もおこなう。「アフガンに自力発展と国民生活の改善を助けたい。」15年~19年の対アフガン投資は計2830万㌦(約31億円)である。アフガンには鉄鉱石、石炭、同など1兆㌦~3兆ドルの地下資源がある。イスラム教徒の多い新疆ウイグル自治区へのタリバンの影響を懸念している。「東トルキスタン・イスラム運動(ETIM)」とアフガン過激派と連携すれば、中国国内にテロを起こしかねない。
【テロとの戦い】
2001年、9.11の同時多発テロをきっかけにテロとの戦いが叫ばれるようになった。テロの時代は、アフガニスタンだけでなく、世界に広がっている。その中でイスラム国家、ISが注目されるようになった。
フランス政府は、2020年、イスラムの過激思想の取り締まりを始めた。国内のモスク76か所の調査である。過激思想を持っている人物が出入りしている疑いのあるモスクを調べる。危険な宗教指導者「イマーム」がいるなどの18ヵ所を優先的に調査する。モスクの資金源の監督強化や、外国からくることが多いイマームを国内で要請することも視野に入れている。(2020.12.7)
2017年、5月22日、マンチェスターのアリーナで爆発が起き、19人が死亡した。2015.7日から9日、パリの週刊紙「シャリルエブド」本社の銃撃で17人死亡。11月13日パリの劇場や飲食店などで銃撃と爆発、130人死亡。2016年3月22日ブリュッセルの地下鉄駅と国際空港で爆発32人死亡。16年7月14日、フランス南部のニースでトラックが群衆に突っ込み86人死亡、など。
ISが実行したテロに、2015年10月、シナイ半島でロシア旅客機墜落。220人以上犠牲。16年、コプト教の教会で爆発。25人が死亡。17年4月、カイロ北部のタンタとアレクサンドリアのコプト教会で爆弾テロ40人以上死亡。11月シナイ半島北部アリーシュ近郊で、モスクが襲撃され、300人以上死亡。
【増加するイスラム教徒】
イスラム教徒の数は、増え続けている。メッカで大規模は工事が、10年前から行われている。大モスク拡張のほか、鉄道、不動産プロジェクトなど。イスラム教徒の関連ビジネスで空調、電気系統、ごみ処理を近代化する。総投資額210億㌦。聖地メディナを結ぶ高速鉄道も。サウジの大手ゼネコングループのビンラディン・グループは高さ600㍍の超高層住宅・ホテルを建設している。メッカは年約600万人のイスラム教徒の巡礼が訪れる。世界の人口に占めるイスラム教徒の割合は26―27%に膨らんでいる。
【フィリピン】
フィリピンはカトリックのキリスト教の国と理解されている。しかし、もともと250年前まではイスラム教徒の国であった。反政府組織モロ・イスラム解放戦線(MILF)は、2016年に新自治政府設立をフィリピン政府に認められる枠組みに合意した。ミンダナオ・イスラム自治区(ARMM)は廃止される。アルカイダはこの地域に進出していた。徹底したアルカイダの論理で、イスラム教徒の部落を攻撃して勢力を広げていた。
【イスラム圏の課題-シリアの場合】
シリアはアラブの春を素通りし、アサド政権の強硬策で内紛が続いている。イスラム国家ISの台頭、難民の発生、アサド政権による化学兵器の使用、といった問題がある。国連は和平会議を提案し、以降政府の樹立を2014年1月22日に始めた。
アフガニスタンと同様、シリアも国家建設という課題がある。反体制派の代表格の「シリア国民連合」は移行政府を国連が提唱する中で中心的な役割を担う可能性はあるが、国家建設に武力で制圧という要素が、アサド政権の有利に働く可能性もある。外国の干渉ということでは、ロシアとアメリカ、中国という大国が関与している。また、シーア派のイランとスンニ派のサウジが対立し、それぞれ大きな影響力を持っている。
【アフガン国家】
アフガニスタンの第一の必要なことは治安の樹立である。国家建設という課題が、タリバン支配で宙に浮いてしまった。アフガン政府の質的な問題もあった。統治の安定も軍の統制も国家制度も進んでいなかった。
アフガニスタンには、アメリカが支えるアフガン政府軍、アメリカ軍、タリバン、ISがいた。ISはシリアやイラクでの劣勢から拠点をアフガンに移すという懸念もあった。突然の軍事削減は危機につながりかねないという危惧は示されていたが、バイデン政権は強行した。オバマ政権時のアフガン駐留米軍は10万人規模に膨らんでいた。バイデン氏はトランプ政権下機密を共有できていなかった。国内政治の不手際が失政につながったと言えそうである。 国家建設という課題に関しては、国連が大きな役割をする必要がある。それはタリバン政権に関しても言えることである。化学兵器の廃棄には化学兵器禁止機関(OPCW)がかかわっているが、刻々の協力も必要となる。難民救済に関しても緊急の課題であるが、受け入れだけでなく、長期的な視野を含めて、国家を立て直すことが重要である。
アフガニスタンは、2021年9月現在、9割の人が食料部不足で、タリバンですら食料が足りていない。国家が崩壊した中では人々は生きていけないのである。
【国家の必要性】
現代世界では、国家が崩壊しているとき、治安は保たれず、武力を持つものが支配し、人々の生活と安全は破壊される。難民が発生し、食料が手に入らなくなり、経済は麻痺する。ハイパーインフレが起こり、生産活動は停止される。まず国家建設が必要である。国連は、短期的な救済だけでなく、長期的な国家建設に指導的な役割を果たす必要がある。様々な外国勢力の干渉は解決に導くより混乱と戦争を誘発する。
国家建設の原則は、拙著『戦争廃絶』(ふくろう出版、p.255-p.262)に示した。国連がまず、そのような原則を構築することが必要だと思われる。
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